カテゴリ:017 目が覚めたらオレが天使に( 1 )

017




目が覚めたらオレが天使になってました

(※014の続編)




「ううん、ん。」

目が覚めてしまった。
体じゅうがざわざわする。
わき腹を掻こうとしたら、ふわふわしたものを捕まえた。
オレはレースまみれの白い服を着ていた。

「えぇっと。…えぇ?!」

ひらひらした襟と袖。マンガでこういうの見たことあるけど。
オレが着てる。って、はぁ?!意味わかんねぇ。
スカートの中、サラサラの裏地が脚に巻きついていた。
女になってみたいなと思うことはあったけれど、
それは違う。こういうことじゃない。
昨日飲んだか…いや、飲んでない。
オレ、なんでこんな格好を?
無意識にしてたら洒落になんない。
むくっと体を起こすと、背中でバサッと音がした。
なんか付いてる。

羽だ。

気味が悪いが、自分で動かせる。
羽の動かし方なんて…いつ覚えたんだ。
あ、いやそんなこといったら腕の動かし方はいつ覚えたんだろうな。

背中に上から下から手をまわしても、
羽の根元には触れない。ちょうど肩甲骨辺りから生えてるようだ。


立ち上がり、スタンドミラーの前で一回転してみる。
えっと、これはつまり、天使だ。


この信じがたい状況、過去にもあったような気がする。
あん時はオレに羽が生えてたわけじゃないけれど、
目の前にそういう生き物がいた。

あのコの嫌がらせか?




ドンドンドン

あぁ、また、こういうときに来んなよ。

「ふじもとー。」

倉田だ。

ドンドン ドン

「寝てんの?ふじも」
「なんだよ急にくんな、帰れ。」

薄汚いドアを挟んで、天使の格好した男が立ってるだなんて
想像もしてないんだろう。

「いるんじゃん。開けて。」
「いや、あのね、人いるから。だめ。帰れ。」
「へぇー。あのさ、さっき道でコンタクト落としちゃったんだ。メガネ貸して。」
「お前さ、オレの話聞いてる?」
「今日大事な試験なのよ。急いでんの、オーディションすぐそこの会場。早く。」
「あー。倉田は行っても行かなくても同じだって。」

沈黙

やばい。
地雷を踏んでしまった。

「ちょ、ちょっと待ってろ。」

メガネ メガネ

シルク裏地が脚に絡まって、自由がきかない。
自然とちょこちょことした女走りになってしまう。
動くとスカートの裾がふわふわと揺れる。
レースがひらひら舞う。
こんな姿、認めない。
オレじゃないオレじゃない。

またこういうときに限って、メガネが見当たらない。
積んでたCDが崩れて床に広がる。
雑誌も、マンガも、セリフを走り書きしたメモも、
全部ごっちゃになって机を覆っている。

あああ

あ、そうだ。羽使おう。
ハタハタハタハタ
これすげーや。ホントに浮いたよ。オレ。


天井ぎりぎりまで浮かび上がり、
上から部屋を見下ろしてみた。
変な気分だ。幽体離脱とかって、こんな感じなんだろうか。

メガネは部屋の隅に、リモコンと一緒に転がっていた。
宙に浮いたまま手を伸ばし、メガネを拾った。

天使も悪くないな。
便利だ。



「ほら、メガネ。」

ドアを開けると、倉田は腕時計を触りながらその場を離れようとしていたとこだった。
目を丸くしてこっちを見る。

「なんだよ、早く取り来いって。急いでるんだろ?」

その見開いた目に、だんだん不審の色が現れた。
なんだよ。

あー。


バタン
オレは急いでドアを閉め、ポスト口からそろそろとメガネを差し出した。
しかし数秒後、カッカッカッと走り去るミュールの音がした。




メガネをつまんだ手をポストに差し込んだまま、
オレは玄関に跪き、うなだれた。
フワフワのスカートが履き散らかした靴の上に着地した。
倉田は受かる見込みのない劇団の試験を終えた後、
オレのこの姿を皆に言いふらすだろう。
最近面白いことねぇなーとか言ってた浅野とか、思い切り食いつくだろうな。
あぁ、終わった。


そのとき、スッと指の先からメガネが離れた。
あれ?アイツ、戻ってきたのか。
そうか、結構本気なオーディションっぽかったしな。
ここで恩売っとけば、言いふらすこともないかもしれない。


とりあえず、もう一度寝直そう。
夢かもしれないし。
ふわふわの白い服と自分の体をぐしゃぐしゃと布団に突っ込んで、
無理矢理目を閉じた。




「ううん、ん。」

目が覚めた。
ジャージ上下のオレがいた。
そうだよな。そうそう。

よし、コンビニに飯でも買いに行こう。
ぐしゃぐしゃと頭をかき、立ち上がった。
そのとき、ガガガガと携帯が床で震える音がした。

メールだ。倉田からだ。
件名がない。アイツにしてはめずらしい。


[藤本、病院行った?]

は?

[なんで?元気だよ。]

[あたま。そこまでヤバイと思わなかった。]


夢じゃ、なかったのか。
言い訳する「訳」ひとつも思い浮かばない。


[メガネは?持ってったんじゃないの?]

[はぁ?バカ。しね藤本。変態。]


どんまい。オレ。




コンビニに着いたが、弁当食う気にはなれない。
煙草買って帰ろう。
自動ドアが開く直前、雑誌の並ぶガラスの向こう、
黒縁メガネの可愛い女の子が立ち読みしてるのが視界に入った。
あのメガネは。
そして肩から少しはみだしてハタハタと動く白い物体は。

たぶん彼女は穴の空いた汚いジーンズを履いてるんだろう。



オレは思わず開いた自動ドアを無視して、
そっと来た道を引き返した。




天使ってやつは、性格が悪いらしい。














[PR]
by Dasein100-1 | 2005-02-15 01:05 | 017 目が覚めたらオレが天使に