カテゴリ:014 目が覚めたら天使が部屋に( 1 )

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目が覚めたら天使が部屋にいました




初めまして、藤本君。

え?あ、どうも。

突然来てごめんなさい。
私のことどう思ってる?

いきなり、どうって言われても。

純白で、清潔で、優しさに溢れているというこのスタンス。
…胡散臭いと思わない?

まぁ確かに。

私本当は煙草も吸いたいし、
汚いジーンズ履いてコンビニ行って立ち読みとかしたいのに。

すればいいんじゃないの?

それが簡単にはできないの。
天使という仕事柄、やっぱりイメージが取り柄だし。
だから貴方の生活が羨ましい。
貴方から見れば、裕福な暮らしをして誰からも好かれていて
社会的地位も高い私の生活が良く映るかもしれない。
けれど本当はそんな幸せじゃないの。

へぇ、そうなんだ。
で、何しにきたの?

ちょっと元気づけに。
貴方がこの部屋でくすぶってるの知ってたから。
友達にならない?
私は他の天使とは違って自分に特別意識などないの。
だから与えるとか施すという立場ではなく、
貴方のような人と対等なつきあいをしたい。

あー。断る。

え?どうして?

うーん。めんどくさい。
悪いけどもうすぐ友達くるんだ。出てってくれる?


雑誌やゴミが散らばった6畳にも満たない狭い部屋で、
両腕を頭にまわして寝転がっている男と、畳に上品に跪いた天使がいて、
そこに数秒の沈黙があった。

気まずい。


男はリモコンに手を伸ばしテレビをつけた。
騒がしい音が流れ出し、そのすぐ後に安っぽいチャイムが鳴った。
天使はいまだ動かなかった。

まだ居たの?
ほら、これあげるから。

彼は天使の白い手に、煙草の箱を握らせた。


天使は泣き出した。
煙草を握りしめ膝の上に載せ、長い睫毛を濡らして涙を流していた。
ドアに向かおうとしていた彼はそれに気づき、戻ってきた。
そして天使の正面に正座し、言った。


君は天使である自分に特別意識がないらしいが、
オレは腐った人間である自分に特別意識がある。
だから対等には付き合えないんだ。
ごめん。
あ、これも持ってく?

彼はそばに転がっていたカップめんを、天使のもう一方の手に握らせた。


チャイムが苛立ったように繰り返し鳴った。
彼は慌てて立ちあがり、ドアへ走った。



「倉田か、早いな。」
「出てくるの遅いよ、外寒かったんだから。何してたの?」
「いや、さっきまで天使が来てて。」
「なにそれ。新しい脚本の構想?なんか胡散臭い、そのテーマ。」

藤本は散らかった自分の部屋を見まわした。
天使は消えていた。煙草と、カップめんも。

「天使って…あ、可愛い子でも来てたの?」
「まあね。」
「それで、どうしたの?」
「帰した。」
「もったいない。」
「ですよね。」
「浅野たち、もうすぐ来るって。」

「実はさ、奇跡が起きないかなって思ってたんだ。」
「奇跡?」
「奇跡が起きて、天使みたいに可愛い子がうちに来ないかなってさ。」
「バカじゃないの。」
「でもホントに来ちゃったよ。しかも本物が。」
「へー。それで帰しちゃったんでしょ?」
「そう。」
「藤本さ、寂しすぎて頭おかしくなったんじゃない?」
「そうかも。」


今日はクリスマスでした。
奇跡が起きたけれど、たいしていいもんじゃありませんでした。
友達にならない?
って、なんだそれ。

今日はクリスマスでした。
それで普段全然意識してなかった倉田のことが急に気になりだした、
ワケでもなく。

吉祥寺のこの狭い部屋で、
いつもの仲間と飲んで、食べて、寝ます。



奇跡はもういりません。神様。自分でなんとかします。
こんな毎日も、けっこう楽しいです。アーメン。










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by Dasein100-1 | 2004-12-25 23:57 | 014 目が覚めたら天使が部屋に